運命とか奇跡とか

あのときの背中を何度も反芻する

雨でけぶって霞んだ緑色のレインコート、しわくちゃになって汚れた袖に、赤い原付を押して歩いていた

雨で帽子の色は変わっていて、その下の茶色い髪もぺしゃんこになっていた

救いにきたんだと思った たくさんのことから
迎えにきたんだと思った 雨だからじゃなくて

そんなものどこにもないって知っていたし、分かっていたし、もはや思想だったけれど、私のはじっこのまだ痛々しい部分が信じて、きっと信じるという言葉の妄信とかそういう意味で、信じていた。

来たらいいのにと思った
そうしたら、本当に君があらわれる

そういう願いと偶然の間にあることを重ねて奇跡みたいに思うんだと思う。

なんとなく尊い思い出はやっかいだね
雨だったとか、どしゃ降りの雨だったとか、花火が綺麗だったとか、普段降らない雪が降ったとか

言えなかった言葉の、伸ばせなかった手の、喉の奥で言葉が一度でて、消えたことの結果がなんとなく尊いというのは滑稽な気もするし、当然のような気もする。

夏ですねと言って
夏だねと返す奇跡を探していたいのだと、私はいいかげん認めた方がいい。

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