茜色の魔法を使う
あなたの指先がすきだった
まどろみの中で聞こえる声みたいな
遠くで聴けば ひどくやさしいのに
目覚めていればその冷たさに手を止めるような
そんな声で呪文を唱えて 指で空をなぞる
あなたの肩までしかない私の背では むこうの空が見えないんだ
いつも私には明日の空が見えていたのに
あなたの隣にいようとすると ずっと夕日の中にいるみたいに
ひたいに感じる肩の厚みを手離せないで
茜色の魔法を使う
私はずっと、あなたの肩越しにその赤をみている
_
その赤を、君は知っているけれど
私が見ることはない
君の魔法を見ることはない
_
「知ってました」
と言われたことがあって
もはや早朝のAM3時、
まだ月が銀色で、気温はマイナス10度とかで
足まで雪があって珍しくパウダースノーじゃなくて大粒の湿った雪が降っていた、夜から続く朝で
私は知らなかったなと思った
私は、知らなかったから知りたかった。
向き合って、お互いの目が合っていても、
その背のむこうの景色を、知ることができる相手と、そうでない相手がいるよなぁと
それを見えないから見ないまま、見せてもらえないまま生きていくことも、もちろん可能なんだけど
たぶんそれは寂しさと似ていて
その人の顔や声や動作や温度を知れても見えてもわかっても
その背の向こうの景色を知れるかどうかというのはその人との関係性に大きく関わるのではと 思うのだよなぁ
本当は私の身長は168cmだから
早朝で雪の、本当にどんよりとした鈍色の、すこし朝焼けをかんじる銀色の、お世辞にも綺麗だとは言えない、ただのグレーの空が見えていて、
でも、何にも分からないなって思ったんだよ なぁ
私はやっぱり 何も知りませんでしたよと 恨みがましく思うことがあるよ
そのとき、知ってました、と言われたときのわたしの気持ちというのが、本当に私の人生でも何番めかの、複雑な心境というやつで、
未だにあれが、怒りだったのか悲しみだったのか、諦めみたいなものだったのか、分からないんだよねぇ
全部だったのかな
最近は疲れたなとかそういう情動のレバーしか動かしていないから 思い返してしまったのだった
生きています
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