おだやかな恐怖

いつか 君がいなくなるんだと思ってた

いつかいつか、たぶん今すぐ、明後日とか一ヶ月後とかそれくらいの現実感を持って、君はいなくなるんだと思っていた

今、隣にいる君さえ、本当に儚く、もう幻なんじゃないかと思う

そう思っては自分の思考で自分の心をちくちくと刺しては君はいなくなるんだと何度も僕はそよ風に当たるように思い当たるのだ

本当に、いつか、君はいなくなるんだ。

だから、とかは思わない。
ただそのことを僕は寄せる波のように自分に告げる

おそろしい

(untitled)

知らないところで時間は進んでいて
取り残されたみたいに泣いたことがある

真っ暗な夜に防波堤に登って
ふらついたら落ちるのは海だった

波の音よりもテトラポットや防波堤にあたる風の音の方が大きかった

いつもみている星の周りにもっと小さな星がたくさん見えて、北極星はいつもよりずっと水平線に近いところにあった

ちゃんと毎日を生きても 時間が動いていないことがある 動いている場所もある そのちぐはぐに指先が戸惑う

10年経って、あのとき良かったなって思いたくないなと思った

それくらい星は美しくて、風は冷たかったし、世界は夜だった。

-

そう言ったら、わかるよ、うまく言えないけど、わかるよ、って言ってくれた人がいて、良かったなぁと思った。

今美しいこととかかけがえのないことが時間をかけて美しくなってしまわないといいなと思う。感じられないほど美しくなってほしくないなと思う。


きれいな海と空をみたので。

(untitled)

君の顏を見るとお腹が減るよ

はやく家に帰ろうって思う
同時にもう少し君を見ていたい気もする

そうだね、君のところへ走って帰りたい
そこに何も待っていなくていいから

君のところへ帰ってお腹が空いた話をしよう

透過性

指先を見ていた

話しながら、私の目の前をすい、すい、とうごく指の、つめのかたち、そのひらたさ、ながさ、そり。

指がなぞる先を私もなぞりたくなるほど、きれいな手だと思った
爪の先から、透き通るのかと思った


ふざけながら握った手の、ぬるさを覚えている
戸惑った手のひらを無理やりに捕まえた握り返してくれたらいいと思ったから

指先を見ている
驚くほど簡単に 私の視線はその指先を追うでしょう

透き通る
気持ちよりも言葉よりも簡単に

(untitled)

はやく戻っておいでよ

そこに私の探している意味はひとっかけらも入っていないのだけど

くすぐったいです
帰ります、戻ります。
小走りで、ゆきます。

栄養をもとめる

ポカリ飲んでるときは、気持ちが弱ってるときなんですよ

誰も気付いてくれないけど

って少し笑う みたいな雨の日など。

運命とか奇跡とか

あのときの背中を何度も反芻する

雨でけぶって霞んだ緑色のレインコート、しわくちゃになって汚れた袖に、赤い原付を押して歩いていた

雨で帽子の色は変わっていて、その下の茶色い髪もぺしゃんこになっていた

救いにきたんだと思った たくさんのことから
迎えにきたんだと思った 雨だからじゃなくて

そんなものどこにもないって知っていたし、分かっていたし、もはや思想だったけれど、私のはじっこのまだ痛々しい部分が信じて、きっと信じるという言葉の妄信とかそういう意味で、信じていた。

来たらいいのにと思った
そうしたら、本当に君があらわれる

そういう願いと偶然の間にあることを重ねて奇跡みたいに思うんだと思う。

なんとなく尊い思い出はやっかいだね
雨だったとか、どしゃ降りの雨だったとか、花火が綺麗だったとか、普段降らない雪が降ったとか

言えなかった言葉の、伸ばせなかった手の、喉の奥で言葉が一度でて、消えたことの結果がなんとなく尊いというのは滑稽な気もするし、当然のような気もする。

夏ですねと言って
夏だねと返す奇跡を探していたいのだと、私はいいかげん認めた方がいい。

星を探す

これが、いつかの答えだと思った

あの日離した手の、あの日繋げなかった言葉の、この瞬間の連続が答えだったのだと

星を探すけれど
ひとつぶんの視野では ただ瞬きだけで逃してしまう気がした